“Sapporo International Art Festival 2017,” photo: Ikuya Sasaki

そよぎ またはエコー

2017

毛利は「札幌国際芸術祭2017」の準備のために、石狩の海から始まり、河口の上流へと身を任せつつ音威子府まで北上する旅に出た。そこで彼女が目にしたのは、雪によって次々に倒壊する元炭坑街の建物や、工場の裏庭に打ち捨てられた100年前の碍子の破片、そして北海道出身の彫刻家・砂澤ビッキのアトリエに鎮座する倒壊したトーテムポールの様子であった。
ビッキは死の3年前、4本のアカエゾマツの柱でできた彫刻作品《四つの風》を、会場と敷地を共有する札幌芸術の森野外美術館に設置する。木を素材とするため、いずれ倒壊することが危惧されたが、「生きているものが衰退し、崩壊してゆくのは至極自然のことである(…)。自然は、ここに立った作品に、風雪という名の鑿を加えてゆくだろう」とビッキは語ったという。その意志を受けて自然のままに晒された作品《四つの風》は、当初4本あった彫刻のうち3本が倒壊し、いまは最後の1本が屹立するのみとなっている。
こうした、朽ちながらもいまだ生々しく存在するさまざまなモノたちとの出会いに触発され、毛利は本作《そよぎ またはエコー》を発想した。建築家・清家清が設計した札幌市立大学の山を貫く空中歩廊「スカイウェイ」を会場に、そのダイナミックな空間を活かし、時間や環境によってモノが摩耗・風化していく様子が、音の現象に変奏される。鑑賞者は、会場の端からもう一方の端へと向かうなかで、フィードバック音や電磁波、鈴の音の響き、街路灯の明滅を感じながら、自動演奏ピアノが奏でる音楽や朗読されるビッキの詩が“音速のゆらぎ”によって変化し、エコーがかかったサウンドがやがてフォーカスを合わせ、ある一点においてエコーが完全に消えるのを感じ取ることができる。
本作のタイトルはドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミン最晩年の作品「歴史の概念について(歴史哲学テーゼ)」から採られた。「私たち自身に、昔いた人たちのまわりの空気がそっとそよいでいるのではないか。われわれが耳を傾ける声のうちに、今では沈黙してしまった声のこだまがあるのではないか──」(山口裕之訳)。本作に響くのは、そのような、現在に残る過去からのメッセージである。


《四つの風》へ向けた砂澤ビッキの詩
風よ
お前は四頭四脚の獣
お前は狂暴だけに
人間達はお前の中間のひとときを愛する
それを四季という
願はくば俺に最も
激しい風を全身にふきつけてくれ
風よお前は
四頭四脚なのだから
四脚の素敵な
ズボンを贈りたいと
思っている
そうして一度抱いてくれぬか

“Sapporo International Art Festival 2017,” photo: Ikuya Sasaki

“Sapporo International Art Festival 2017,” photo: Ikuya Sasaki

“Sapporo International Art Festival 2017,” photo: Ikuya Sasaki

video: Felipe Rodríguez Martínez

そよぎ またはエコー
2017年
素材=ピアノ、MIDIピアノ、ソレノイド、スピーカー、碍子、鈴、街路灯、電磁石、アンプ、磁石、セメント、鉄、iPod、アンテナ、ロール紙、ファン、電球、ケーブル
音楽=坂本龍一
詩=砂澤ビッキ
英訳=管啓次郎
声=カミーユ・ノーメント
サイズ=可変
作品形態=インスタレーション

そよぎ またはエコー