「お忙しいところ失礼します。」

写真家・植本一子氏と、ライター南波一海氏が、毎回気になるクリエイターの仕事場に突撃する連載コラム「お忙しいところ失礼します。」。
今回は、第3回目に訪れた漫画家の今日マチ子氏以来となる久々の女性クリエイターのお宅です。昨年水戸芸術館で行われた、大友良英「アンサンブルズ2010-共振」にも参加し、「相模湾大水槽」など動物的なエネルギーあふれるインスタレーション作品を展開し続ける、アーティスト・毛利悠子氏のお宅に伺ってきました。

まずはこの表情に注目。漲る生命力が伝わる写真だ。

毛利悠子は美術家である。主戦場はもちろん展示を行う会場なのだが、ベースとなるのは自宅での作業。彼女自身が生活する自宅のベッドルームの一部が工房と化している。そこには普通に生活していたら縁がないようなものが並んでいるし、机の上には作業用の道具や工具が雑然と置いてあるのだが、醸す雰囲気は“これぞ作業場”というよりも、どこか愛らしいものだ。

そのイメージは彼女の作品に直結する。電気を使用してモーターを動かしピアノの鍵盤やドラムを叩いたり、送風機が風船を膨らませたりするのだが、そのビジュアルや所作のひとつひとつが武骨でありながらどうしたってキュートなのだ。
「好きなんだよ。むしろこっち(可愛いもの)が主役だよ」

毛利の手にかかった古物や楽器はまるで生き物のような動きをする。機械や道具を“擬人化”させることが最大の特徴ではないかと思う(植本一子曰く「モノがモノとしてまっとうできる気がする」)。
「モノから勉強することが多い。あなたはこういう風に動いてたんだねって勉強してから、その動きを自然なまま使って、何かを足したりして別のことに使わせてもらってる。テクノっぽいものというか、カチカチいってる物は生きてるように見えないんだよね。動かすタイミングとか有機的にしないといけない」
それらは本当に生き生きとしていてまさに有機的に動いているにもかかわらず、そうさせている心臓の部分、つまり装置の回路はすべてむき出しになっていて、ひじょうにメカメカしく機械然としているところも面白い。
「うん、機械の部分は見せっ放しだね。ブラックボックスが嫌いなんだよ。絶対に仕組みを見せたい。仕組みが見えてないものっていうのは不誠実だと思ってるから。それでもみんな不思議って言うんだよ。なんで動いてるんですか?って聞かれても、見りゃわかるじゃん。全部公開してるから隠しようがないんだよ」

回路が見えていると真似できてしまうのでは?、というこちらの野暮な質問にも「いいんじゃないの」とそっけない答えが。それからすぐさま「でもこれは絶対ゲットできないし、使おうと思う人いないだろうから」と言いながら、写真に収められたアンティーク(?)なアイテムの数々を嬉々として説明してくれた。毛利悠子という人の度量と性分を感じ取った次第である。

アトリエ全景。鉄琴やギターなど楽器を使った作品も多い。「なれるんだったら音楽家になりたかったよ。だから昔、大友(良英)さんが展示を見に来てくれて“音楽にしか聞こえないよ!”って言ってくれたのは感動した。美術より音楽の方が伝えるスピードが早いんだよね。美術の方が観る人も限られてるし。最近はモノの動きに興味が出てきたけど、前は音楽に対する執着心はあった」

作品に使われた道具や作業用の工具。手製のバチ、ペンチ、ブロワ—など。「ペンチとかラジペン大好き。現場で使っているとみんな持ってちゃうから名前書いてる」

イームズの椅子の足に乗せられた巨大拡声器(!)。スピーカーとして使用する。

蚕を育てる時に送風するための扇風機。「この前これにモーターつけて自動で動くようにして、鈴をつけた。古いからたまにガクガクってなるんだよ。そしたらチャリチャリ不規則に鳴ったりする。もうね、おじいちゃんにしか見えない(笑)」

Favorite Item

ダチョウの毛のハタキ。触ってみるとその見た目以上にふわふわとした感触。「思ったよりめっちゃアニマルでしょ。これを動かすと本当に生き生きするんだよ」

Creator Profile

毛利悠子
美術家。1980年神奈川県生まれ。消耗品や楽器を用い、独自の機械構造で動きや気配をつくるインスタレーションを制作、発表している。国内外展示多数。
URL: mohrizm.net

「お忙しいところ失礼します。」